
2019年5月、出会いは静かにやってきた。
小さく抑え込まれるような違和感から、静かに"スルスル"っとラインが引き出されていく。
ストリッピングした左手にズンッと重さが加わり、#8ロッドが気持ちよく弧を描く。
太く、トルクのある力強い引きをいなしつつ”長かったなぁ・・・"と、それまでの時間の経過を噛み締めながら、キビレとのやり取りを楽しんだ。
手には、五月晴れの下で銀ピカに輝く美しいキビレが横たわった。
このシチュエーションでこの魚。
この魚に会うために、どれくらいの距離を投げ倒したことか。
どれだけ遠回りをしてしまったことか。
3年ほど前。
風の噂で多摩川河口で、キビレをフライで追いかけている人達がいると耳にした。
身近な場所で、白昼ウェーディングでのびのびとロッドが振れ、好ファイターのキビレとゲームが楽しめる。
"こんな面白い話は、なかなかあろうハズがない。"
すぐに飛びつきたいところではあったけど、耳に入ってきたのはただ多摩川河口でキビレが釣れるという漠然とした話だけ。自分には縁のないフィールドで土地勘も無く、釣り場へのアプローチやらパーキングスペースやらどんな釣り場なのかなどなど、何から何まで分からないことだらけ。さらにそれを聞いた当時は身近にやっている知人もいなかったため、なんとなく行動を起こすきっかけがつかめないまま時だけが過ぎ、そのうち自分の意識からも薄れていってしまった。
2018年初夏。
親しい友人が行ったとか、釣ったとかの情報から、しばらく眠っていた子供が目を覚ます。
川に降りられる場所は?車を止めるところはある?くらいの最小限の情報を入手した。
想像で巻いた数個のフライを持って、初めて干潟に降り立ったのが7月初旬。
結果は、あえなくチーバス1匹とハゼのようなアタりのみ。長年かけて開拓した先人達を考えると、そんな簡単に釣れようはずがないのも当たり前。それでも、こんな身近な都会の足元で、日中のびのびとフライが振れて釣りが出来ることそのものが、たまらなく新鮮で楽しかった。キビレの反応は得られなかったものの、大体の感じはつかめたので翌週再び干潟に向かった。
ところが・・・。
川へのアプローチのために歩いたコンクリート護岸でスリップ転倒。
左足首負傷、いくつかの深い擦り傷と足首の激痛で出鼻をくじかれてしまう。捻挫程度と勝手に思い込み、水に浸かっていたら冷やせるなどと浅はかな考えで、痛い足を引きずりながら釣りをした。結果、悲劇の2回目釣行は、ワンバイト、ワンフッキング、ノーフィッシュ。フッキングして竿を起こした瞬間、1.75号のグランドマックスが瞬殺され無念のバラシで終了となった。出会いには至らなかったものの、自分の組み立てで反応が得られたことの清々しさや、それを獲れなかった悔しさや、現実に戻ったときの足の痛さが混じりあった複雑な味を噛み締めながら歩く、駐車場までの道のりがなんと長かったことか。
そのケガが複雑骨折、要手術と想定外に重傷で長期の療養を強いられてしまう。
当然、釣りにも行けないから釣友の情報などを参考にいろいろ研究を重ね、まだ見ぬキビレに想いを馳せて、せっせとフライを巻き貯める日々が続いた。
2019年3月。
8カ月の長~いブランクを経て、ふたたび干潟に帰ってくることが出来た。
実弾はたっぷり、気力十分。情報は以前と比べて比較にならないほど多い。
万全の体制。
でも、キビレは応えてくれない。
空振りの連続。
それがキビレ釣りなのだ。
が、そんなこともしっかり準備して、諦めないで続けていればいつかは終わるもの。
自分はちょっとした油断から余計な遠回りをして、初の出会いまでえらく時間が掛かってしまったたけど。いつか必ず静かにやってくる。
クッ、スルスル―と。
こんなフィールドは、そうそうあるものではない貴重な場所。
大事に接して長く楽しんでいきたいものだ。
ROD:Thomas&Thomas Solor #8-9ft' <Thomas&Thomas / TEAL >
REEL:Hatch Finatic #7Plus <Hatch Outdoors /Maverick>
LINE:自作2Dシューティングヘッド(インタミとタイプ3の組み合わせ)
FLY:マンティスシュリンプ(タンカラー)